
「ここで仕事をしよう。」 猫のおばちゃんが教えてくれたこと
私は昨年、市役所を早期退職し、実家の2階で「なかせ不動産」を開業しました。
事務所も接客スペースも2階にありますが、最近ずっと考えていることがあります。
「もっと地域の方が気軽に立ち寄れる場所をつくりたい。」
そんな思いから、実家の1階を相談スペースにできないか、友人の大工さんに相談しているところです。
そんなことを考えていた、ある日の夕方。
玄関先で掃き掃除をしていると、サングラスをかけた年配の女性が声を掛けてくださいました。
「わかる?」
一瞬、誰だろうと思いました。
でも、話し始めると、私の祖父がこの場所で理髪店を営み、その後、お菓子屋をしていた頃からのお客様であることがわかりました。
「懐かしいねぇ。」
そんな昔話をしていると、もっと驚く話が飛び出しました。
私が子どもの頃に可愛がっていた三毛猫の「みーちゃん」。
そして、その後に母が世話をしていたコーギー犬の「ゴルゴ」。
どちらも、このおばちゃんが、保護猫、保護犬として、譲っていただいた子だったのです。
昔話に花が咲く中、おばちゃんが笑顔で言ってくださいました。
「奥さんには顔剃りをしてもらってるのよ。」
「あなたの名刺ももらってるから、家を売る時はお願いね。」
「売れるかなぁ。」
「市役所辞めはったんやね。」
「宅建も取ったって聞いたよ。」
「痩せたわね。」
気が付けば、不動産の相談までいただいていました。
そのちょうど横を、右京区役所の職員さんたちが、大映通りを下っていきました。
軽く会釈をすると、向こうも気付いてくれました。
「今日は飲み会かな。」
そんなことを思いながら、もしそうなら後から合流したいな、なんて少しだけ思いました。
退職しても、街で会えば自然に笑顔になれる仲間がいる。
市役所で過ごした33年間は、本当に大切な時間だったのだと改めて感じました。
そして、その日の出来事が、私に一つの答えをくれました。
やっぱり、この場所なんだ。
掃き掃除をしているだけで、懐かしい方が声を掛けてくださる。
世間話が始まり、昔話になり、気が付けば不動産の相談になる。
もちろん、その場ですぐ仕事になるわけではありません。
でも、地域の方との何気ない会話の積み重ねが信頼を生み、「困ったら中瀬さんに相談しよう」と思っていただけるのだと思います。
不動産は、家や土地を売る仕事ではなく、人と人とのご縁をつなぐ仕事。
今回、それを改めて教えてくれたのは、「猫のおばちゃん」でした。
そして、ふと思いました。
祖父は理髪店を営み、お菓子屋を営み、この場所には昔から地域の方が自然と集まっていました。
その流れを受け継ぐように、今度は私が不動産屋として、この場所で地域の皆さんをお迎えする。
そう考えると、とても自然なことのように思えました。
だから私は、この1階を、地域の皆さんが気軽に立ち寄れる場所にしたい。
「ちょっと相談してもいい?」
「家のことを聞いてほしい。」
「売るかどうかは決めてないけど…。」
そんな声を気軽に掛けていただける場所にしたいと思っています。
売却の相談だけではありません。
家族のことでも構いません…。
地域の皆さんのお話をゆっくり聞ける場所をつくることが、私の目標です。
あの日、おばちゃんが声を掛けてくださった一言。
「わかる?」
その一言から始まった再会が、私に改めて教えてくれました。
ここで仕事をしよう。
この場所だからこそ生まれるご縁を、これからも大切に育てていきたいと思います。
